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第3話 違和感

Author: 文月 澪
last update Last Updated: 2025-05-06 17:57:40

 昇降口が近付いてくると、先輩はくるりと回り手を振る。

「じゃあ、ボク向こうだから。また会おうね凛ちゃん!」

 そう言って3年生の下駄箱の方へ走って行くけど、いきなり何も無い場所で転んだ。慌てて駆け寄り、助け起こすと額を擦りむいていた。

「先輩、大丈夫ですか? ああ、こすらないで。ちょっと待っててください」

 私は昇降口の脇にある手洗い場へと走り、ハンカチを濡らすと取って返す。先輩はズボンをはたきながら、立ち上がっている。周囲には沢山の生徒がいるのに、誰も手を貸そうとしていない事に、少しのイラ立ちを覚えた。

「先輩、お待たせしました。傷口に砂が入り込むと危ないので、落としますね」

 ぬるいハンカチで額を洗い、鞄から絆創膏を取り出して貼り付けた。

「本当は消毒もした方がいいんですが、持っていなくて。後で保健室に行ってくださいね。他に痛む所はありませんか?」

 あちこちと触る私に、先輩は声を上げて笑う。

「くすぐったいよ凛ちゃん! 大丈夫、おデコだけだよ。ごめんね、ハンカチ汚しちゃって。洗って返すから、ちょうだい」

 断る隙もなく、さっとハンカチに手が伸び、持っていかれてしまった。

「そんな、いいですよ。ハンカチくらい、いくらでもありますから……!」

 取り返そうとしたけど、先輩は既に手の届かない場所まで遠のいていた。

(うそ……足速い)

 私は剣道部だ。走り込みも毎日している。身長も私の方が高いし、体力だってあると思ったのに、全然追いつけない。

 そうこうする内に、先輩は素早く上履きを取り出し、裸足で廊下を走っていく。

「ダメだよーだ。お礼はちゃんとしなきゃだもん。これで会う口実もできるし、返しませーん。ほら、予鈴鳴ってるよ! 凛ちゃんも教室行かないと、遅刻になっちゃう」

 その言葉を残して、先輩は階段を駆け上っていった。確かに予鈴が鳴っているし、諦めるしかないか。

 ふぅ、と溜息を吐いて振り返ると、眞鍋さんが青い顔で近付いてくる。どうしたのかと思っていると、他の人も同じ反応だった。

「どうしたの、眞鍋さん。顔色悪いよ? 保健室行く?」

 心配する私の腕にしがみつき、眞鍋さんは声を潜め、先輩が去っていった方を気にしながら囁いた。

「凛くん、あの人に近付くのはやめた方がいいよ。ヤバい人なんだから!」

 私は意味が分からず首を傾げる。

「どうして? ヤバいって……全然そんな感じじゃなかったじゃない。気にしすぎだよ」

 あんなに可愛いのに、何がヤバいのか本当に分からない。少しそそっかしくて、目が離せない人だった。理由を聞いても、眞鍋さんは口ごもっている。周囲を見回しても、みんな同じ顔をしていた。

 少し暗い雰囲気の中、本鈴が響く。

「ほら、急がないとホームルーム始まるよ。みんなも、行こう?」

 そう促し、駆け足で教室に向かった。

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